第7章 山ほどの手が
~炭治郎~
「そういえば、幸子は鬼殺隊にいた時、最終選別には行かなかったのか?」
その話を振った時、俺は己を叱った。幸子から聞いた昔の話は、その小さな体からは想像もつかないような内容だったからだ。幸子の中で、それはもう思い出したくもない過去なのではないか…そういう考えが頭を過ぎった。しかし、結果は俺の考えとは逆だったようで、本人は別段変わった様子もなく俺の問いに答えた。
「うん。その時の最終選別には間に合わなかったの。呼吸がやっと使いものになったくらいだったから」
呼吸…。今の俺の歳の半分もいっていない頃に、幸子は習得したのか…。それは聞かずとも大変だったのだと想像がつく。苦しい境遇の中で、唯一与えられた居場所。それを掴もうと、惜しむことの無い努力を必死でしたのだろう。優しく真っ直ぐなこの妹のことだ。どんな言葉を投げかけられても、理不尽なことを言われても、ひたすら努力を続けたのだろう。
「そうか。本当、幸子は凄いな」
俺は自然にその言葉が出ており、俺より幾分小さい背丈の妹の頭を撫でていた。いつもなら、嬉しそうにするのだが、今回は幸子は少し居心地の悪い様子で首を振った。そして、その時の幸子から再び泣きそうな匂いがして、あぁ…またこの妹は俺のことを気遣っているのだと思った。
「………幸子は優しいな…」
背負ってあげられるものなら共に背負っていきたい。しかし、この優しくも気丈に振る舞う妹はそれを嫌い隠そうとする。
「………いつか…その荷を半分くらい持ってやれたらいいのにな」
紫色の花々に興味津々な大切な俺の妹。そんな妹を見ながら、俺は祈るようにそう呟いたのだった。