第6章 炭治郎日記 後編
視界がぶれる。私がそれを認識した時には、真菰と刀を合わせていた。刀と刀が交じる音が響き渡り、再び真菰の姿が消える。
「私は錆兎みたいに易しくしない」
真菰のその言葉の意味が分かった。錆兎は自分の位置を声に出して教えてくれていたのだと。私が目を追い易いように。
「他のこと考える余裕あるの?」
「っ!!」
しかも…真菰は錆兎よりも速い。音も殆どしないし、気づけば刀が交わっている。錆兎との稽古で反射神経が鍛えられていなかったら、私は最初の攻撃で斬られていただろう。
「幸子」
真菰が私の真正面に立つ。私は肩で息をしながら、彼女を見る。錆兎との稽古で、随分鍛えられたこの目。信頼していたこの目で追えないのだ…。私は困惑した。
「姿を捉えるだけが『視る』ってことじゃないよ」
困惑する私の耳に真菰がそう呟くのが聞こえた。
「え…」
「あ、これ錆兎に内緒だよ。本当は幸子が自分で気づいて欲しかったみたいだから。だから、女の子同士の内緒話」
ふふっと口に指を当て、いつものように柔らかく笑う真菰。……姿を捉えるだけじゃない?
「えっ!? ま、待って!!!!」
真菰の言葉を噛み砕こうとしても、真菰は再び攻撃を開始する。
「頑張れ幸子。炭治郎はもうすぐ岩を斬るよ」