第6章 炭治郎日記 後編
錆兎や真菰と出会って半年の時が過ぎた。その間に、姉の瞼は相変わらず開かれることがなく、兄も家に帰ってくることが少なくなっていた。鱗滝さんの話によると、大きな岩を斬ることに悪戦苦闘中なのだと。
「………駄目だ…」
そして、私もかなり悪戦苦闘していた。目の前で大きく唸る滝に、私は肩で息をしながらため息をこぼす。
「この滝を斬れたら、"最終選別"に行くのを許可する」
そう鱗滝さんに言われてから、私は何も進歩していなかった。滝を斬る?滝は斬るものだっけ?刀で斬れるものだっけ?斬れる気がしない。その言葉がぐるぐると頭を回る。
「どう? 斬れそう?」
水で重くなった衣類をそのままに地面に寝転がっていると、不意に聞こえる柔らかい声。見ずとも誰か分かり、私は首を振った。
「今日も駄目!! そもそも滝を斬るっていうイメージがわかない。水の流れに刀が逆らえないの!! 鱗滝さん、最終選別に行かせる気ないでしょ!!!!」
滝の流れは常に一方向だ。それに逆らおうとすると、絶えず流れる水の力によって押しつぶされてしまう。その圧倒的な力に対し、失敗したあとの私の両腕は鉛のように重くなってしまうのだ。
「そっかぁ」
私の言葉にいつものようにくすくすと笑う真菰。しかし、その笑う声がピタッと止まり、私はその異変に体を起こす。
「じゃあ、分かるはずもないね」
真菰は笑みを浮かべていなかった。あの相手の警戒を解いてしまうような…柔らかい雰囲気を彼女はもうまとっていなかった。
「いつまで座ってるの? 幸子」
そして、彼女は腰の剣を抜く。彼女の視線が私の肌を刺し、私の息は自然に荒くなる。
「ま、真菰…」
「私は錆兎みたいに易しくしないよ」