第5章 炭治郎日記 前編
家に帰ると、いい香りが鼻を刺激する。
「……流石鱗滝さん。もう準備ができてるや」
私や兄の修行をつけ、さらには姉の様子も気にかけてくれる。さらに私たちの食事の様子までも面倒を見てくれるのだから、有難すぎてもう申し訳ないレベルだ。
「……もうすぐ帰るな」
遠くでフラフラの兄と早足の鱗滝さんが帰ってくるのが見える。私はご飯をよそい、2人の帰りを待つ。
「おかえりなさい。鱗滝さん」
「今帰った。ご飯をよそってくれたのか。ありがとう、お前は本当に働き者だな。幸子」
頭を優しく撫でられ、私は心がポカポカするのを感じた。…本当に温かい人だ。私の方がお礼を言う立場なのに、この人は私がすることを褒めてくれるし、叱ってもくれる。
「や…やっと着いた……ただいま幸子…」
鱗滝さんが席に着くのと同時に、遅れて兄が帰ってきた。こういうとき、鱗滝さんは決まって私をじっと見る。いつもであれば、私は気づかないフリをするのだが……。脳裏に錆兎の言葉が浮かぶ。
「逃げるな!! 己から、敵から、兄から!!」
私はスタスタと早足でぐったりとなる兄の元へと行く。
「………? え、幸子!? どどうした……」
私は兄をぎゅっと抱きしめた。そしてごめんなさいと小さく謝った。いくらなんでも1年無視は自分でもやりすぎたと思う。だが、もう引くに引けなくなったのだ。私も兄のことは言えないなと苦笑する。
「………幸子が謝る必要はないんだ。兄ちゃんこそごめんな。お前にはいつも苦労を……ムグッ」
やっぱりこの兄は分かっていない。ついまた怒りに身を任せそうになったが、その前に兄の口を塞ぐことに成功した。
「後でじっっっくりと話そう!! でも、その前にご飯ね。鱗滝さんの料理が冷めちゃう!!」
「ああ!! そうだな!!」
そして、鱗滝さんが兄が慌ただしく準備をしている隙に私の頭を優しく撫でた。
「…よく頑張った」
「いつまでも鱗滝さんを困らせるなと怒られましたから」
私の言葉に不思議そうにする鱗滝さんの顔を見て、ふふっと笑うと私は忘れていることに気づく。
「お兄ちゃん、おかえりなさい!!!!」
私の言葉に兄は笑みを零した。そして、その後久しぶりに賑わう夕食になったのだった。