第5章 炭治郎日記 前編
「弱い、弱い、弱い。怒りに身を任せ、自分を見失うとは。その目は飾りか?」
咳をしながら、私は立ち上がる。…速い。反応出来なかった。
「反応できなかったなどと言うなよ。そんなもの、ただの言い訳に過ぎない」
私の心を読んだかのように錆兎はそう私を制す。そして、錆兎はゆっくりと刀を抜いた。鈍く光る刀は私を臆させるのに充分だった。錆兎はそんな私に苛立つように怒鳴った。
「恐れるな!!!!!! 剣士になると決めたのだろう!!!!!!」
そして、私との間合いを一瞬で詰める。私は咄嗟に錆兎からの攻撃を刀で弾く。
「逃げるな!! 己から、敵から、兄から!! 剣士ならば闘え!!!!」
兄と似た言葉を言う…そう思ったが撤回しよう。彼は違う。彼は私に闘えと言う。兄に言って欲しかった言葉だ。
「言われなくても!!!!」
その時から私の中で恐怖は無くなっていた。すると、冷静になった目は彼の動きをよく捉えるようになった。……なんだ。私、見えてるじゃん。錆兎もこれを言いたかったのかな…
「私は剣士だ!!!!!!」
トサッ…
私の振り下げた刀が彼の刀を弾き上げる。鉄と鉄が混じった音がし、そして錆兎の刀が向こう側に弾け飛んだ。
「…………できるなら最初からやれ。お前は炭治郎とは違い、呼吸の使い方は形にはなっているようだからな。あとは、その目をどう闘いに生かすかだ…」
スタスタと歩みを止めず、刀を手に取った錆兎はそういった。どうやら兄と同様に稽古を付けてくれたようだ。
「さ、錆兎!! ありがと…」
「礼はいい。…それより鱗滝さんをあまり困らせるな。あの人、ただでさえ夜はあまり寝れていないんだから」
そして、錆兎は霧の中へと消えていってしまった。
「……13人目の感じなかった気配…。錆兎だったのか…」
私はぼんやりと彼の消えた方を見た。彼がいなくなると霧は晴れ、滝の音が辺りに響き渡るのだった。