第5章 炭治郎日記 前編
「………いつまで炭治郎と話さないつもりだ」
私を精一杯転ばせた後、鱗滝さんはそう私に問いかける。
「…………兄が私が鬼殺隊に入ることを認めるまで、です」
鱗滝さんは近くの岩に腰掛け、小さくため息を吐く。
「それだけか? 幸子。お前が不満に思っていることは」
「……………」
鱗滝さんは本当によく見ていると思う。私は気まずくなり近くの石を滝に投げ入れた。
「………禰豆子があのようなことになり、炭治郎もお前も辛いだろうに。いつまでも意地を張ってもいいことは無いぞ」
私の頭をポンっと軽く叩く鱗滝さん。心地よい風が私の横を通り過ぎたと思うと、鱗滝さんの姿は消えていた。……本当に面倒見のいい人だ。
「………でも…私にだって譲りたくないもの…あるんですよ」
「分かるよ。その気持ち」
可愛らしい少女の声。私は慌てて声のする方を振り返る。
「こんにちは、幸子」
花柄の狐のお面を頭につけた少女。私が山に入る時に見かけた少女だった。