第4章 必ず戻る夜明け前には
私は彼のその反応で察し、深々と頭を下げた。…やはりそろそろ潮時か…と観念して。
「……今の名前はそうです。以前は…鬼舞辻…魅子という名でした」
この人は元柱なのだろうから…私の事なんてとうの昔に知っており、この人に隠していても意味が無いのだ。…私は連れ戻されるのだろうか…あの居場所のない地へと行かされるのだろうか…。無意識に唇を噛む私とは違い、鱗滝さんはそのままの調子で口を開いた。
「……お前が鬼殺隊に保護され、そして行方知らずとなった。それからお前の消息は掴めないままだと聞く。…達者そうで何よりだ」
鱗滝さんの言葉に私は思わず顔を上げた。私の目に映る鱗滝さんは正しい姿勢を崩さず、私を真っ直ぐ見ていた。お面でどんな表情をしているのか分からなかったが、途端にぽろぽろと涙が溢れ出た。
「お前は自分の居場所を自分で見つけた。これからどうするのか決めるのはお前自身だ竈門幸子。今も過去もお前自身だ」
いつの間にか私の傍に鱗滝さんが座っていた。頭に心地よい重みを感じ、私はもう止まらなくなった。恨まれていると思った。蔑まれていると思った。私は…だって私は……!!
「…強くなれ幸子。兄と共に…姉を人間に戻すために」
優しく抱きしめる鱗滝さんの肩が震えていることに気づいた。
「生きていてくれて…本当によかった…!!」
鬼殺隊。私が罪を犯したところ。鬼舞辻無惨を殺すことを目的とした組織。だから、私には居場所がないと思っていた。でも、ふと私は思い出した。鬼舞辻無惨から逃げたあの後、私はある2人の鬼殺隊に会った。彼らは私を日の出る場所に連れ出し、そして抱きしめて同じ言葉を言ってくれたのだった。
「………私を保護してくれてありがとうございます。鱗滝さん」
冨岡さんやこの人が、私のことをすぐに分かったのは恨みからかと思った。しかし、どうやら違うようだ。何年も何年も私を案じてくれたのか…。私は鱗滝さんの震える背をそっと撫でた。
「…私なんかのことを…ありがとうございます…」