第3章 見知らぬ誰か
鱗滝さんはおそらく元柱で、育手だ。足音もなく、私たちの前を進む鱗滝さんの後ろ姿を見ながら私はそう思った。
「だ…大丈夫か…幸子…」
私より息が荒い兄がそう私に尋ねる。鱗滝さんから姉の籠を持つように言われた手前、私はそれを変わるとは兄に言えないでいた。しかし、兄は何度も何度も私にそう話しかけるのだ。私は頷く。
「……お前にも……禰豆子にも……辛抱をかけるなぁ…」
私はそう呟く兄に首を振る。この兄は昔から長男だからといって抱え込みすぎる所がある。
「……絶対にお姉ちゃんを元に戻そうね」
「…ああ…!!」
額に汗を滲ませる兄が私に微笑む。山の中へと入り、心做しか鱗滝さんの動きも遅くなってきたように思える。もうすぐ着きそうだ。