第3章 見知らぬ誰か
姉はそのままの勢いで鬼の首を飛ばした。兄が殺してしまったと青い顔をする。
「ね、禰豆子」
その兄を鬼の胴体が襲い、やっと兄の元にたどり着いた私はその腕を切り落した。
「ぎゃあっ!?」
姉に蹴り落とされたはずの鬼の首が叫び声をあげる。兄がギョッとした視線を向けた先には、鬼が叫んでいた。
「てめぇらぁぁ!やっぱり1人鬼なのかよ! 妙な気配をさせやがってぇぇぇ!なんで鬼と人間がつるんでやがるんだァァ」
…不気味だ。私は斧を軽く振りながら思った。1歩鬼の首へ歩みを進めると、それを兄が制した。鬼の胴体が動き出し、鬼が私目がけて襲い掛かかってきたからだ。
「まずはお前からだァ」
兄が私を庇おうと前へ出る。しかし、鬼は私たちをスルーし、姉がいる所へと行く。私は斧を握りしめた。
「やめっ……お兄ちゃん!」
姉の元へ行こうとした私だが、今度は兄に鬼の首が襲い掛かった。私に一瞬の戸惑いが生じる。兄の元へ行くか、姉の元に行くのか、だ。その一瞬の隙をつき、私の足に先程切り落した鬼の腕がまとわりつく。
「くっ…!!」
私はその腕を足で踏むが、鬼の腕も離そうとはしない。
「幸子っ!」
いつの間に鬼を倒したのか、兄が私の元に駆け寄り、鬼の腕を向こうへ放り投げる。鬼の首をみると、鬼は木の幹に斧で固定されていた。…流石だ。
「禰豆子っ!!」
私はハッとして走り出した兄の後を追った。姉が今にも崖から落とされそうになっている。私は大きく息を吸った。……久々だけど、上手くできるだろうか。今のままでは兄が飛び込み、鬼と共に崖から落ちるだろう。
ヒュオオオ…
体中が熱くなり、心の臓の鼓動が速くなる。私は思いっきり息を吸い、そして力いっぱい足を踏み込んだ。
「っ!? 幸子!!」