第3章 見知らぬ誰か
そのお堂を最初に見つけたのは私だった。昔から私は夜目が効き、さらには少しばかり目がよかった。
「よくあんな遠いところから気づいたな幸子。お前のおかげで野宿せずに済みそうだ。少しばかり休ませて貰おう」
兄はそう言うと、空いた手で私の頭を撫でた。私は微笑み、再び歌を口ずさみながらそのお堂へと足を進めていったのだが……そのお堂が見えてくるうちに気づいてしまった。私は昔から夜目も効いたが、物の目利きも何故か分かっていた。なので、それで良い壺なんかはこっそりと売買して家計の足しにしていたのはナイショの話だ。だからこそ気づいた。そのお堂は…良くないものだと。
「お兄ちゃん…」
「ん? どうした?」
私が足を止めたのに気づき、兄は私を振り返った。姉も私の顔を見る。私は口を開いた。しかし、その前に優しい兄が気づいてしまった。
「血の匂いがする!! 幸子、この山は道が険しいから誰か怪我をしたんだ」
兄が力強く私たちを引っ張り、段々とお堂に近づく。すると、私の中で何かが警告するのだ。あそこは危険だ、と。何が危険なのだろうか…。そうまるで…先程回避したはずの危機をもう一度知らせるように…。私はそれに気づいて、兄の肩を掴んだ。
「お兄ちゃん!! 止めっ…」
「なんだおい。ここは俺の縄張りだぞ。俺の餌場を荒らしたらゆるさねぇぞ」
しかし、時すでに遅し。兄はお堂の扉を開けており、その扉の奥から私でも分かるほどの強い血の匂いと、倒れている幾人の屍人の姿が現れたのだった。