第3章 見知らぬ誰か
姉が土竜みたいになってしまった。私は苦笑いをしながら、明るくなった空を見つめた。
あれから歩みを進めていくうちに、無表情だった姉の顔が段々と渋いものに変わっていった。そして、気づけば姉は私の兄の手から離れ、この近くの洞穴に身を隠してしまう。
「確か…陽の光を当てるなと言ってたな」
兄はそう呟くと、私に姉を見ておくように言ってどこかへと行ってしまった。
私はふぅっと腰を下ろした。陽の光が洞窟内へと差し込んでくると、姉は嫌そうな顔で地面に穴掘ってその中にいた。私が頭を撫でると、心地よさそうに身を寄せてくれる。その姉の甘えるような姿は久方ぶりに見るなぁ…そう思っていると、兄が竹と壊れかけの籠を手にして帰ってきた。姉の姿を見て、渋い顔をしたのは言うまでもない。
「ちょっと待ってろ」
そして、器用に竹を使って籠を手直しする兄。そこに小さくなった姉を入れ、私達は再び歩き出すのだった。
「お兄ちゃん。大丈夫?」
その道中、度々私は兄にそう尋ねる。姉が入った籠を私は兄に交代で持とうと提案したのだが、頑なに兄はそれを拒否したのだ。
「幸子は怪我をしているだろ? 兄ちゃんは大丈夫だ」
聞く度にこのような答えが返ってくる。こうなると、頑固なんだよなぁ…。私は少し息が荒くなる兄に気づかれないようにため息をつく。しかし、暗くなれば姉は歩けるようになったので、私は姉と手を繋ぎ、小さい頃よく歌っていた歌を口ずさみながら道を歩いた。
「幸子がいると明るくなるなぁ。なぁ、禰豆子」
姉も心做しか楽しそうな雰囲気を出しており、私と兄は嬉しそうに微笑みあった。声掛けでどうにかなるものではないと分かっているが、これが少しでも改善する方へと繋がって欲しい。そう思いながら、進んでいた時だ。兄が異変を感じたのは。