第2章 残酷
「動くな」
私たちがが姉を取り戻そうと足を踏み出そうとした時…そう牽制したのは目の前の鬼殺隊の青年だった。
「俺の仕事は鬼を斬ることだ。勿論、お前の妹の首も刎ねる」
私は体を震わせた。そうだったと…忘れていた感覚が蘇る。じんわりと垂れる汗に相手が強敵だと思い知らされる。……間違いない、この青年は柱だ…。脳裏に思い浮かんだのは、眩しすぎるほど強い炎。…彼は炎柱となっただろうか…。ふと昔に思いを馳せ、目の前の青年に思考を戻す。あの人を太陽とするならば、この青年はその地上を流れる川のように掴みどころのない感じがする。その青年が剣を姉へ向ける。
「止めてくれ!!」
隣の兄が膝をつく。私は動けなかった。青年の視線が一瞬こちらに注ぐが、すぐに兄に移る。私は震えが止まらなかった。青年の視線と記憶の中の瞳が重なったからだ。
「やめてください…どうか妹を殺さないでください…お願いします…」
だめだ…姉が殺される。私はすぐに察した。鬼殺隊にそのような情はない。皆、鬼に親しい者を食い殺された過去を持った者ばかりだ。鬼に情けをかけることは死を意味することを知っている。
「お願いします…」
私はすぐ側に落ちている斧を目にした。それに手を伸ばそうとして…私は動きを止める。…この青年を止めたとして、その後どうするのか…そんな考えが頭を過ぎったからだ。姉が鬼になったことはもはや変えようのない事実。鬼になった姉は、再び兄や私を襲うだろう。そうなった場合、今度こそ私と兄は……