第2章 残酷
「お兄ちゃん!!」
私は思わず飛び降りた。兄は辛うじて、斧の柄で姉の口を抑えていたが、あれでは時間の問題だろう。受け身が上手く取れなかったが、雪のおかげで痛みは軽減できた。私はよろめく足で2人に駆け寄った。
「禰豆子! 頑張れ!禰豆子!!」
姉の体が大きくなって、兄を潰そうとしていた。私は姉を引き離そうとしたが、力が強すぎて私の力では到底無理だった。
「鬼になんかなるな!こらえろ…頑張ってくれ!!頑張れ、禰豆子!!!」
励ます兄の言葉に反応したのか、姉の目から涙がこぼれ、兄の頬に落ちた。兄の目からもまた涙が溢れ出ていた。
「お姉ちゃん……お姉ちゃん……ごめん……ごめんね……お願い…お兄ちゃんを食べないで……お姉ちゃん」
姉の目が私を映した。その目からは以前の姉の優しさが感じられたように思えた。
「お姉ちゃ……っ!?」
突如、黒い影が私たちに剣を切りつけてきた。それは真っ直ぐお姉ちゃんの首へと向かっている。私は姉の袖を掴んで、思いっきり引っ張った。間一髪だった。
「ゴホッ…ゴホッ…」
剣は姉をかすめ、私たちは横へと転がって避けた。兄も私と同じことをしていたようで、勢いよく転がった。私と姉は兄に抱きめられていたので、衝撃は半分くらいで済んだと思う。兄が咳き込み、私は起き上がった。
「…なぜ庇う?」
切りつけてきたのは男の剣士だった。悪鬼滅殺と彫られたその刀には見覚えがあり、私はゾッとした。…鬼殺隊だ。
「妹だ! 俺の妹なんだ!!」
兄が後ろで叫んだ。男に反応したのか、姉が再び唸った。私が振り向いて、彼女に抱きついた。
「お姉ちゃん…!」
「それが妹か?」
「……っ」
兄と2人で姉を押さえ込もうとするが、姉はこの場から逃げ出そうともがく。
「禰豆子!!」
不意に誰かから押され、いつの間にか姉は鬼殺隊に捕えられていた。