第2章 残酷
息があがる。山の空気はこんなにも辛かっただろうか。私はすぐに息があがってしまった。
「はぁ…はぁ…」
でも、姉を背負っている兄の方がもっと辛いに決まっている。そんな中でも、兄はずっと私やお姉ちゃんに声をかけていた。禰豆子…大丈夫だ。今山を降りているからな。幸子…怪我をしているのにごめんな。もう少し頑張れ…。私はただただ情けなくて…申し訳なくて…涙が出そうだったけど、涙を流すことはできなかった。…元凶が涙を流すだなんて、そんなことは出来ない。
「禰豆子…絶対に死なせないからな。絶対に助けるからな」
「お兄ちゃんっ!」
私は思わず叫んだ。兄の背中の姉が動き出したからだ。兄が気づいた時は遅く、姉は
「グオオオオオ」
と今まで聞いたことのない声で唸り、暴れだした。
「お姉ちゃん…まさか…なんで…」
私は一瞬、頭が真っ白になってしまった。そのため、足が滑り、下に落ちて行った兄を助けられなかった。掴み損ねた手が宙を切る。
「お兄ちゃん!!!お姉ちゃん!!!」
「幸子!!!心配するな!!お前はそこにいろ!!」
雪が積もっていたので、兄はかすり傷ひとつしてないようだった。しかし、私がホッとしたのもつかの間だった。姉がゆっくりと兄に近づいて来たのだ。
「禰豆子!!」
兄は姉の異変には気づかない。私は叫んだ。
「逃げて!!!」
その途端、姉は牙をむきだして、兄に襲いかかった。