第2章 残酷
~~~炭治郎side~~~
夜が明け、俺は山へと入っていった。止めてくれた三郎爺さんはまだ眠りについていたので、きちんとお礼の手紙を書いて、出てきた。
「……皆、心配していないだろうか」
正月に多くのものを食べさせてあげたくて、遅くまで粘ってしまった。父が死に、母は自分のことよりも俺たちを優先してしまっていた。俺は長男だし、父がいない今、俺が皆を守っていかなくてはならなかった。それに、着物も買ってやりたかったし、何より暮らしが少しでも良くなり、皆が元気で笑顔で過ごしてくれたら、他には何も望まなかった。
「……特に禰豆子や幸子には、苦労をかけているからな。新しい着物を買ってやりたいなぁ」
2人とも下の子を優先して、自分のことは後回しだった。着物だって食べ物だって、自分より俺たちの方に気を回し、2人とも着ているものは何度も縫い直し、そして怖いくらいに細かった。
「お兄ちゃん、いいの。それより、下の子に買ってあげて。私は大丈夫だから」
2人とも同じことを言い、そしてお互いにお互いのことを心配するのだ。
「幸子(禰豆子お姉ちゃん)には、お兄ちゃんからって言ってから渡してね。すぐ下の子にあげようとするんだから」
俺はそれを聞く度に、申し訳ない気持ちになるのだ。こんなにも優しい妹たちに苦労をかけている自分が情けなくなるのだ。
「お兄ちゃん!!そんなこと言ったら、お姉ちゃんにまた怒られるよ!」
ふと、昨日の幸子の言葉が頭に浮かび、思わずくすりと笑ってしまった。そうだ。まず、俺がすることは早く帰って、炭が売れたことを報告することだ。今年は厳冬だったからだな。…皆喜ぶだろう。
だが、家に近づくにつれ、つんっとした匂いが俺の鼻に掠めた。
《幸せが壊れる時にはいつも、血の匂いがする》
俺は嫌な予感がし、家へと急いだ。