第15章 蝶屋敷
何故そう言ったのか分からない。あの男と目の前の朗らかに笑う青年が似ているとも思わない。だが、私はそう感じてしまったのだ。何故、産屋敷の人は鬼舞辻無惨を殺すことに生涯をかけているのか、彼が自身の病のことを呪いと表現したのか…これで繋がった気がした。お館様は少し驚いた顔をし、そして笑みを浮かべた。
「幸子は凄い子だね。あの男も君のそんな所が気に入っているのかな」
あの男…鬼舞辻をそう呼ぶお館様に、私は思わず息を飲んだ。一瞬、ほんの一瞬だけだが……お館様の笑顔の奥にある黒いものを感じた気がしたからだ。だが、それはすぐに消え、私の勘違いだったのではと思わせる。
「……長居してしまったね。もうすぐ夜が明ける…禰豆子を日の光から遠ざけてあげないと」
私は思わず目を擦って欠伸をする姉を見た。姉と目が合うと、小さな身体で私を抱きしめてくれる。なんだか久々な気がする…私もぎゅっと姉を抱きしめ返す。
「あぁ…そうそう幸子」
耀哉くんがお館様の手を引いて部屋から出る前、彼は口を開いた。そして、自分の手を引く耀哉くんを見る。耀哉くんのくりっとした瞳が私を見る。
「…あの時、助けてくれてありがとう」
ペコッとお辞儀をすると、耀哉くんは再びお館様の手を引く。耀哉くんはこのためにここへ来てくれたのだと知る。
「どういたしまして」
去っていく小さな背中と大きな背中。私はその後ろ姿にそう呟いた。……さぁ、姉を日の光が届かないところへと連れていかないと。