第15章 蝶屋敷
「…………幸子は本当に優しい子だね。炭治郎の言う通りだ」
私が何を思ったのか察し、お館様は静かにそう言った。この人は人の心を読めるのだろうか…いや、私なんかから言われずとも…この人は自分の運命を分かっているのだ。自分はもうすぐ命が尽きてしまうということを。
「……不思議だね。私は目が見えないはずなのに、幸子が今どんな顔をしているのか分かってしまう。そんな顔をする必要はないんだよ」
ふふっと朗らかに笑うお館様だったが、隣で行儀よく座っている耀哉くんの顔に一瞬の陰りが見られた。……そうか…この子も知っているのかと、私は何とも言えない気持ちになる。しばしの沈黙が流れ、不意にお館様が口を開く。
「私は君に謝らないといけない」
それは先程までの朗らかな雰囲気ではなく、暗い声だった。
「私が判断を誤ったせいで、君には辛い思いをさせた。本当にごめんね」
お館様は、元炎柱やその家族が惨殺されたあの事件のことを言っているのだとすぐに分かった。あぁ…この人はあれを自分のせいだと思っているのか。こんな華奢な身体で、病に侵された身体で、この人はどんなに過酷なことを背負っているのだろう。そして、その過酷な道を今度は彼の息子に渡していく。これが産屋敷として産まれた人間の宿命なのだろうか…? 私は首を振る。
「あれは私の罪です。私が当時の炎柱及びその御家族を…殺してしまったんです…」
私の言葉にお館様は悲しげに首を振る。
「いいや、あれは私の落ち度だった。君に監視がついていることを見抜けなかった私の過ち…。私のせいで多くの犠牲を出してしまった…。ずっと、幸子に謝りたくてね。君は自分で背負うことのできる子だから…。ちゃんと言えてよかったよ」
「………お館様が謝る必要などありません」
背負っているのは私でなく貴方だ…言いかけた言葉を飲み込む。何もかも自身の過ちとしてしまえばいつか潰れてしまう。だが、その前に、彼自身の命の灯火が消えてしまうだろうが…。ふと、あの鏡のような世界にいた女性が頭を過ぎる。ゾッとするような綺麗な容姿を持つ女性に成っている彼を。私は無意識のうちに口が動いていた。
「鬼舞辻無惨は貴方方の血を引いているのですか?」