第15章 蝶屋敷
「どんなに姿を変えても、お前だけは私を見失うことはなかった。その目、今になっては忌々しいものだな」
よく言う。もし私が分からなかったら、容赦なく殺したくせに。昔、ふざけて分からない振りをして散々な目にあったことを思い出す。そう言えば、あの時は幼い男児になっていたな…。あの姿はまだ使っているのだろうか。
「…その姿…一体誰に成り代わったのですか?」
「お前が知る必要のないことだ」
ピリッとした空気が肌を刺す。私は構わず口を開く。
「鬼殺隊から逃げる度に、貴方は姿を変えていった。そんなに怖いですか?」
臆病者…そう誰かがこの人をそう呼んでいたことを思い出す…あの人は元気だろうか…1度だけ会った儚い表情をする女性が目に浮かんだ。私は息を吸う。もう心の中に恐れなどなかった。ここがどこかも見当もつかないが、だが確かなことはひとつだけ…
「……頑張れ…負けるな…諦めるな…兄ちゃんが付いてるからな!! 幸子」
まるで誰かに握られているように、ポカポカと手が温められていく。左手は分厚い豆だらけの努力の手、右は綺麗な優しい手…それぞれが私を鼓舞し、励ましてくれる。これ以上の応援はあるだろうか、いやない!
「貴方は恐れている。貴方を追い詰めた…花札のような耳飾りをした剣士…その血が再び現れたんじゃないかって」
ピリッとした空気が…重々しいものへと変わる。私は刀を抜き、その刀身に炎を灯す。
「どんなに完璧な状態だろうとも、永遠に変わらなくても…貴方の本質が変わることは無い!!!! 貴方はただの臆病者だ!!!!」