第15章 蝶屋敷
私はなんとか全身に力を入れて、鬼舞辻の体から抜け出す。ズルリと奇妙な感覚が私を襲い、地面に落ちる。痛みで顔を歪ませ、目を開けると…
「……こ…ここは……」
自分を映す地面に気づいた時、私は自分の置かれた状況に気づいた。周りを見渡せば、果てしなく白が続いている。
「大人しく取り込まれておれば、苦痛を伴うことなく死ねたものを」
聞き覚えのある声に私は震える。1度でもこの声に身を委ねようとしていた自分が恐ろしい。この男の言葉を聞いたところで、家族にもう一度会える場所になど行けやしないのに。だが、私は振り返り、その声の主を見て驚愕する。
「だ……誰……?」
そこにいたのは、ゾッとするほど綺麗な女性だった。女性の大きな瞳が私を映し、私はこの場から逃げ出したくなった。
「私が誰だと?」
女性はさも可笑しいというようにフフっと笑う。だが、赤く熟れた唇は弧を描いていても、瞳は冷たく…私を睨んでいた。
「私が誰だか…本当に分からぬか?」
…いや。私はこれが誰か分かるはずだ。拳を握りしめ、私は顔を上げる。
「……貴方はそうやって姿を変え、人になるのが上手でしたね。忘れていました」
自分でも隠しようのないほど震えている声。その女性…鬼舞辻無惨は、よくできましたとばかりにフッと笑みを浮かべた。