第15章 蝶屋敷
ゆっくりと意識が沈んでいく…。まるで泥の中にいるかのように私はゆっくりと…だが確実に暗闇の中へと落ちていた。深い眠りが私を誘う。
「魅子。いい子だ…おいで」
あぁ…これは誰だったか…。私を呼ぶ声が聞こえる。その声が擽るように私の耳に囁く。その声を聞いていると、私はただこの声に従っていればいい…そんな気がしてくる。
「もう満足しただろう? そろそろ帰ってくるといい。お前の親は私だ」
……うん。そうだ、この人は私の…。その声の主の正体に安堵し、私は声の甘い囁きに身を委ねようとした。だが……
「私に逆らうな。私を受け入れろ。お前は私の子。お前の存在は私が見出してやる」
ヒヤッとしたものが私の体を包んでいく。声が満足そうに笑うと、段々私の体温は奪われていく。まるで声が冷気の大元のようだ。
「私に抗う血を持つ…それに気づいた時心が騒いだよ。魅子、お前を取り込んで初めて私は…忌々しいあの太陽を克服できる!!!!」
寒い…怖い…嫌だ……恐怖が身体を支配する。私の温かいものをこの声は奪っていく…。嫌だ…嫌だ嫌だ嫌だ…!! だが、抗おうにも私は無力だった。冷たいものは私を包み終えようとしているし、私は抵抗しようにも何も出来ない。……もういいのかもしれない…。ふと、そんな考えが頭を過ぎった。うん…もういいよ…頑張った…それに…十分といっていいほどの幸せを貰った。大好きな家族の姿が脳裏に過ぎる。……もうすぐ彼らに会える…そう思うと、不思議と胸が弾んだ。
「いい子だ。無駄な足掻きは止めて、私に従え…魅子」
私は握っていた拳を緩めた。冷たいものがじわじわと私を覆い尽くしていく。声は再び満足そうに笑い、私を………
「負けるな幸子!!!!!!!!」
突然響く声に私はハッと目を開ける。そして、気づく。私を覆っていたものを…声の主を…!!!!
「離してっ!!!! 嫌だ…私は貴方なんかになりたくない!!!!」
私はいたところは沼なんかじゃなかった。私の目と鼻の先には二つの大きな瞳があった。そして、私の体の半分以上は…その瞳の持ち主…鬼舞辻無惨の中へ吸収されていた。