第2章 残酷
「何を驚く。もう少し嬉しそうな顔をしたらどうだ?お前が家族をこんな目に合わせた憎い鬼を殺したんだから」
…あの鬼の苦しみよう…尋常な痛さだったはず。それを私がした?…とてもじゃないが、信じられない。男は困惑する私に笑いかけた。静かで恐ろしい笑みを。
「あの鬼は、私の血に適応できなかったんだよ。お前が私を刺した斧で、鬼を切りつけただろう?つまり、あの鬼は私の血を大量に摂取したということになるからね」
私は一瞬、息をするのを忘れていた。息を吸い始めた時、心臓がバクバク鳴っているのが分かった。私は思わず、体の痛みだなんて忘れて無理やり体を起こした。
「あなたの…あなたの血は………人間を鬼にするだけでなく…鬼を殺すものでもあるのですか!!」
男は叫ぶ私を見て、嬉しそうに微笑んだ。
「そうだ。だから奴らは私に従い、そして恐れ慄く」
そして、私の顔をまじまじと見るかのように顔を近づけた。鼻の先にかつて父と呼び慕った者の顔が。私は吐きそうだった。
「昔からお前は、気に入らないことがあると、私と話さなくなったな。しかしまあ、やっとお前が話しかけてくれて安心したよ。その単純さは変わらず扱いやすい」
そして、私の頬の傷を舐めた。傷から、ピリピリとした痛みが走り、私は顔を歪めた。
「……殺すなら殺せばいい。貴方はいつでもそれが出来たはずです。……貴方がここで殺さなくても、私はすぐにでも自害して、この世を去ります。私のせいで、罪なき人が命を落とすことはもう…なくなるでしょうから………ぐっ!!」
私は強く首を絞められ、体が浮くのを感じた。苦しさから顔が歪む。バタバタと足を動かす。
「……この世を去る? 何を勝手なことを。お前は私の娘だ。娘の命を私が使って何が悪い?」
「……あ……う…………」
……苦し……い。……そもそもこの人から逃げること自体…無理な話だったんだ……。ごめん、お父さん、お母さん。ごめん、竹雄、花子、茂、六太。ごめんね、お兄ちゃん、お姉ちゃん。こんな私を…家族にしてくれてありがとう。……今からそっちに行くね。……もう、一緒にはいてくれ…ないだろうけど。