第13章 那田蜘蛛山 ~刺激臭~
「……自分で本物の絆を…俺はあの夜、俺自身の手で切ってしまったんだ…。父は俺が人を殺した罪を共に背負って死のうとしてくれていたのに」
累は丸くなった姿勢のまま…私にそう言った。
「毎日毎日父と母が恋しくてたまらなかった。そんな中、魅子……お前とままごとをしているあの間だけ、胸の穴が塞がった気がしたんだ。だけど、偽りの家族を作っても虚しいだけだった。強くなればなるほど人間の頃の記憶も消えていく…」
彼は顔を上げ、私を見た。彼の顔はもう涙でぐしゃぐしゃだった。私は思わず彼に駆け寄り、その小さな体を抱きしめた。彼は驚いたように体を強ばらせたが、ぎこちなく私をそっと抱きしめ返した。
「………温かい…。思い出すなぁ…そうだこの温かさだ。俺は…これが欲しかったんだ」
私はハッと我に返った。私の腕の中に累はいなかった。その代わり、累の斬られた胴体は私たちの近くにおり、その背を兄が優しく触れていた。
「………累……」
私はいつの間にか泣いていた。幻影が見せたのか…その時の累が泣いていたように。累がどんどん灰になって消えていく…。その最期に、消えていく彼を抱きしめるかのように2つの影が現れたように思えた。
「一緒に行くよ地獄でも」
風の音と共に…そう聞こえた気がした。そして…消える直前…累の口がかすかに動いた。
「ごめんなさい」
と…そう言って…2つの影に泣きじゃくっている姿が…累が風とともに散っていく中……見えたような気がしたのだった。