第13章 那田蜘蛛山 ~刺激臭~
累の視線と私の視線が重なり、私はとある部屋にいた。
「………生まれつき…体が弱かった。走ったことも歩くのでさえ苦しかったんだ。……無惨様が現れるまでは」
「……累…」
私の横には鬼の姿の累がいた。累は感情のない目で人間だった頃の自分を見ていた。これは…累の記憶…?
「両親は……そうだ。この人たちが両親だ…。この2人は喜ばなかった。強い体を手に入れた俺が日の光に当たれず、人を喰わなければならないから」
そして、場面が変わり、累が1人の男を喰い殺しているところとなる。累によく似た顔の男の人が叫ぶ。
「何てことをしたんだ累…!!」
そして、辺りは真っ暗になった。しかし、私は隣にいる鬼の累の姿は見えていた。そこだけ光に照らされているようだった。
「昔さ…素晴らしい話を聞いたんだ。川で溺れた我が子を助けるために死んだ親がいたって話。俺は何という親の愛、そして絆だと感動した。川で死んだその親は見事に"親の役目"を果たしたんだから」
興奮したように話す累。目はギラギラ光って、暗闇の中でもその鈍い光は劣ることはなかった。
「………累…」
すると、今度は暗闇が一瞬にして晴れ……そしてそこに現れた光景は……血塗れの男女が横たわっていた。男性の方は絶命していたが、女性の方はまだ息がある様子だった。
「……それなのに何故、俺の親は俺を殺そうとするのか。母は泣くばかりで殺されそうな俺を庇ってもくれない。……偽物だったのだろう。きっと……俺たちの絆は……本物じゃなかった……!!」
私は累を見た。累は私を見ず、ただその横たわっている2人を見ていた。その瞳からは大きな涙が溢れていた。
「そう……俺は思っていた。母の最期を聞くまでは……」
累が嗚咽を上げながら耳を塞いだ。そして、そのまま嫌な光景から自分を庇うように丸くなる。まるで夜に怯える小さな子供みたいに…。
「……丈夫な体に産んであげられなくて……ごめんね………」
私の耳に女の人の最期の言葉が入る。女の人と男の人を交互に見るもう1人の累。困惑する彼に傍にいた鬼舞辻無惨はこう声をかけた。
「全てはお前を受け入れなかった親が悪いのだ。己の強さを誇れ」
と。