第2章 残酷
「まだお前が生きていたなんて驚いたよ。もうあれから百年くらい経ったと思ってたからね」
くすくすと笑う男。私は恐怖でたじろぎそうになったが、母の苦しそうな顔を見て体が動いた。
「まぁ、お前は私に似て賢い子だからね。どこかで人里に紛れているだろうとは思っていたが…まさかこんな……おっ?」
私の体当たりは成功し、男は母を離した。
「ゴホッ……幸子!!!」
男は私を抱きしめた。私の髪を撫で、そしてその匂いを嗅いだ。
「大きくなったな。本当によく育った。こんなにも美味しそうに育つなんて、あの頃は思ってもみなかったよ」
ガタガタと奥歯と奥歯の音が鳴り、止まらなかった。私は自分の体が警告を出しているのが分かった。
《この男から早く逃げろ》、と。
「に…げて!お母さん!みんなを連れて…早く!!!!」
このままじゃ、皆……あの人たちみたいに……
「うわぁぁぁぁ!!」
しかし、突然の大きな音と共に扉が飛び込んできた。
「何っ!?」
外から入ってきたのは、大きな異形の生き物。鬼と呼ばれるもの。先程花子を襲ったのはこれか…! 鬼の足元には私が使った包丁が落ちている。私は、床に隠してあった斧を手に取り、目の前の男に向かって思いっきり振り下ろした。
「幸子!?」
「皆伏せて!!!」
そして、花子の時と同様、思いっきり斧を振り投げた。斧は同様、鬼の頭に刺さる。一瞬たじろぐ鬼。私は叫んだ。
「走って!!!」
私は急いで包丁に手を伸ばした。そしてそれを手に取ると出口に向かって走り出して……
「また逃げるのかい?」
しかし、行く手を拒まれてしまった。部屋の済にいたはずの男が、いつの間にか出口にたっていたからだ。……回復が早すぎる…。私は皆を庇おうと足を進めようとした。でも、
「幸子!!」
私は突然の衝撃に、壁に叩きつけられ、そして意識を失った。