第13章 那田蜘蛛山 ~刺激臭~
その人は音もなく現れた。半々の色の羽織を身につけたその人は、
「俺が来るまでよく堪えた。あとは任せろ」
と兄に言った。私達を鬼殺隊に導いてくれた時のような淡々とした声で。
「…………幸子……禰豆子……」
「おに……ちゃ……」
ズルズルと音を立てて、兄が自分の体を引きりながら私たちの元へと寄る。私の手を握り、私と姉を抱きしめた。
「……よか……た……俺はまた……失ったの……かと……」
それはこちらも同じだ。私は彼と握る手に力を込めた。
「また……2人に助けられたな…ありがとな」
「私も……お兄ちゃ…とお姉ちゃんに……助けてもらったよ…」
兄が私の顔を見て微笑み、再び抱きしめる。そんな私が兄の背から見えた光景は……富岡さんに首を斬られる累の姿だった。