第13章 那田蜘蛛山 ~刺激臭~
「ごほ……お…お兄ちゃん…お姉ちゃん…」
姉は特に怪我もなく眠りについていた。累の糸で傷ついていた切り傷ももうすっかり治っている。よかっ…
「ッ!! ゴホッゴホッ…!!」
息をするのもきつくなってきた…。地面に落ちた衝撃で、肋骨が内蔵の方に刺さったような痛みもある。それに、なんと言ってもこの全身の痛みだ。たった一度しか見たことのないヒノカミ神楽が成功したのは嬉しい。しかし、このヒノカミ神楽がこんなにも曲者だとは思わなかった。体中が重い筋肉痛のように痛みが生じ、全力疾走をしすぎた後のような目眩もする。私でそうなのだ。呼吸を無理やり変えた兄はさらに負担が大きいだろう。
「お…お兄ちゃ……」
そして、私は気づく。兄の後ろに迫る影を。
「る……い…!!」
そこには首がない胴体がゆっくり立ち上がり、兄に向かって1歩ずつ歩いている姿があった。兄も気づき、驚愕の顔に変わる。
「僕に勝ったと思ったの? 可哀想に哀れな妄想をして幸せだった?」
彼は自分の糸で首を切ったとそう話す。そして、憎々しそうに兄を見る。
「不快だ本当に不快だ。何も未練もなくお前達を刻めるよ」
そして、累の腕が勢いよく兄に振り下ろされそうになる。動け…!! 刀を持て!! 兄よりも私の方が疲弊も少なく動ける!! 動け動け動け!!!!!!!!
「血鬼術 殺目籠…っ!?」
「ヒノカミ神楽 円舞…!!」
動いた動いた!! ミシミシと体中が悲鳴を上げているが知ったことではない。今動かなきゃ兄が死ぬのだ。そんなこと……絶対にさせな……
「邪魔だ!!!!」
累が私を糸でふっ飛ばすのと、何かが私たちの横を通り過ぎたのは、ほぼ同時の出来事だった。