第13章 那田蜘蛛山 ~刺激臭~
「………何? 見世物じゃないんだけど」
私はハッとした。どこから飛ばされてきたのか分からないが……そこには心配して止まなかった顔が驚愕して私の名を呼んだから。
「……幸子!!!!」
「…………幸子? 誰それ」
兄は私の姿を見て、刀を強く握った。私は思わず叫ぶ。
「お兄ちゃんダメ逃げて!!!! その鬼は………うっ!!」
「幸子!」
ギリギリと締め付けられる糸に、私は呻いた。………今の衝撃で肋骨が折れてしまったようだ。呼吸が……しづらい…。
「……兄? お前の兄は僕だろ?」
前は自分は弟だと言っていたくせに、累はそう言う。それに、反応したのは女の人の鬼だった。
「ま……待って累!? そいつ鬼狩りで人間なのよ!? い、妹って……」
ズズ…。女の人の累にそっくりだった瞳が、黒いものになり、顔も変形する。…なるほど…これか。これも度を越したままごとの一貫なのだ。それを見逃す累ではなかった。彼女を大きな糸が襲い、片腕が地へ落ちる。
「……何をしているんだ…!! 仲間じゃないのか!!」
私は兄の声を聴きながら、ゆっくりと意識を落としていった。
「お兄ちゃ……逃げて…。その鬼は…十二鬼月……」
私の声が兄に届いたか定かではないが、私の意識が限界だった。血を…流しすぎた…。薄れていく意識の中で、大量の赤が見えたような気がした。