第13章 那田蜘蛛山 ~刺激臭~
「俺は俺が一番自分のこと好きじゃない…怯えるし逃げるし泣きますし……変わりたい…ちゃんとした人間になりたい…」
「……善逸さん…」
「で、でもさァ俺だって精一杯頑張ってるよ!! なのに化け物になんの!? 嘘でしょ!!」
鬼がなんなんだコイツはというような顔を善逸さんに向けた。私は泣きすぎて泣きすぎて、ついにえづいている善逸さんに、刺激を与えないように優しく言葉をかける。
「大丈夫!! まだ時間はあるよ!! だから、善逸さん…早く下山して…」
「ヒギャッ…登ってくんなよ!! ちょっとでいいから一人にして!!」
…ダメだ。もうこの状況に混乱してしまっている。どうする…。せめて、この蜘蛛たちを退かしてくれれば…!!
「ばうっ……」
「善逸さん!?」
目を離した一瞬で、善逸さんが意識を無くしてしまっていた。激しく動いたせいで毒が回るのを早めてしまったのか!? あのままじゃ…頭から落ちる!!
「善逸さん!! くっ……」
私は力いっぱい糸に抵抗をした。肉が裂けるような音がするが、そんなことに今は構っていられない。と、最初の薄皮が切れると同時に、拘束する力が弱まってきたように感じた……その時だった。
「無駄な足掻きをするんじゃ……っ!?」
頭から落ちた善逸さんが、木を蹴った勢いで鬼に飛びかかって行ったのだ。
「斑毒痰」
鬼は冷静に毒を吐き、善逸さんに対抗した。善逸さんは空中で身を捻ってそれを避ける。そして、囚われている私の前に綺麗に着地した。
「……幸子ちゃんは…俺が守る」
そして、私を捕らえていた糸が切れた完全に切れた音がしたかと思うと、善逸さんは走り出した。
「雷の呼吸 壱ノ型…」
「飛びかかれ!!!! 両方だ!!」
私も加勢に入ろうとした瞬間だった。私は多くの隊員に押さえつけられようとする。本当に私に危害を加える気はないらしいが…これじゃあ…!! ついには、まだ蜘蛛に変化していなかった隊員も完全変化し私を押さえつけに来る始末。私は彼らを躱しながら、善逸さんを見た。もう毒で体は限界だろうに…それでも毒を吐き続ける鬼に挑んでいる。ついに、彼の口から血が零れ始める。
「善逸さん!!」
彼の体は限界だ。このままじゃぁ……っ!!!! 私は意を決して、目の前の蜘蛛と化した鬼殺隊員を見た。………やるしかない…のか…