第13章 那田蜘蛛山 ~刺激臭~
「…ありがとう。幸子ちゃんのおかげで俺…少し怖くなくなった…………」
涙を拭いながら善逸さんがそう私に言った時だった。ガサッと横から何かが飛び出してきた。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?」
善逸さんは私に再びおんぶに抱っこのような体勢になる。……よくよく考えてみれば…善逸さん、私に守ってと言ったことはあっても私を盾にしたことはなかったなぁ。と、私は呑気にそう思っていると、飛び出してきたその影がばたりと倒れる。
「人!? しかも隊員じゃん!!」
善逸さんがホッとして地に降りると、私はその人の元に駆けつけた。その人は特に血を流すような怪我もしていないようだった。そして、その人の顔を見て驚いた。
「田山さん!? 田山さんもこの山に来ていたんですね。大丈夫ですか!! 」
そこには、最終選別で途中から善逸さんと三人一組でいた田山さんだった。田山さんは私の顔を見ると泣き出した。
「隊員数名と山に入って、しばらくして隊員同士が殺しあって……俺……必死でその場から離れて……そしたら……そしたら………」
ガタガタと震える田山さんの腕をそっと撫でた。
「ゆっくりで大丈夫ですよ。田山さんはその場から離れて、どうされたんですか?」
「あ…足を…蜘蛛に刺されて……そ…そしたら………うっ!!」
田山さんが大量の血を吐いた。そして、驚く私たちを虚ろな目で言った。
「蜘蛛だ…蜘蛛に気をつけ………」
「た…田山さん!!」
そして、白目を向きその場に倒れ込んだ。息はまだあるが、このままでは命が危険だ。私は彼を抱えようと両足の下を手を通そうとした。しかし……
「…ね、ねぇ…幸子ちゃん……そいつ……なんか縮んでない?」
田山さんの両腕と両足が服に隠れて全く見えなくなっているのだ。先程は違和感なかったのに!? 田山さんの呼吸が荒くなり、口から血が垂れる。
「っ!! 善逸さん!! 田山さんを連れて、今すぐ下山して………」
「いてっ」
善逸さんが手を見ていた。いつの間にか、そこら中に小さな蜘蛛がいる。私は思わず田山さんを抱えて立ち上がった。