第2章 残酷
夢を見た。そこは暗い場所だった。暗くて陽の光が当たらない場所。そこで私は育った。
「魅子」
魅入る子で、みこ。私を呼ぶこの人がつけてくれた名前。私は笑って出迎えた。
「おかえりなさい。パパ!!」
私はゾッとしながら、それをそばで見ていた。私にもこんな時期があったのか……この人を父と慕っていた日が。
「いい子にしていたかい?」
「うん!」
その人は私を抱き抱え、そして歩き出す。私の意志とは関係なく、場面が変わった。次は与えられた部屋で遊ぶ私の姿。聞きたくもない声が聞こえてくる。
「…………よろしいので?」
「ああ、もういい。あとは好きにしろ。お前達の手に余るようなら、下級の鬼にでも食わせてしまえ」
私は自分の体が震えるのがわかった。…………だめ…その扉が…開いたら……
「魅子、お前はもう用済みだ」
そこに居たのは、多くの血走った目をした鬼たちだった。しかし、遊んでいたはずの私の姿はなかった。鬼たちは開いていた窓から外に逃げたと考え、追いかけた。
「……………魅子」
私は思わず耳を塞いだ。見たくない…見たくないのに…体が勝手に動く。
「私があげた香を撒き散らして、自分の匂いを誤魔化したのかい?賢いなぁ」
震える私の頭を撫でるその人。いつも見せていた表情と変わらないのに、目だけ爛々と光っていて怖かったのを覚えている。
「まぁ、私が育てたのだから、それくらいはして貰わないとな」
くくくと笑うその人。そして、その人は言った。
「私はここから出ていくよ。鬼狩りがここに辿り着きそうでね。お前は自由にするといい。心配しなくても、人間のお前に出し抜かれるような無能共は、死んだよ」
私はその人の手が私から離れるや否や…出口に向かって走り出した。もう二度と会うつもりもなかったし、会いたくもなかった。私はその小さい後ろ姿を眺めながら、強く願った。早くこんな夢から覚めるように、と。
「あぁ、そうそう。言い忘れていたよ魅子」
私は思わず振り返ってしまった。あの時のことはこんなにも覚えているというのに、この人のこの言葉には聞き覚えがなかった。その人は、小さい私など見ず、私だけを見つめて笑っていた。それは…まるで…。その人の口が開く。私の反応を面白がっているように。
「きゃぁぁぁぁぁ!!!」
深夜に響き渡った叫び声に、私はハッと目を覚ました。