第12章 緊急の呼び出し
「待ってくれ!! ちょっと待ってくれないか!!」
最初に声を上げたのは善逸さんだった。那田蜘蛛山に近づくにつれ、足が縺れて体の震えても異常になっている。私の手をガタガタと掴む善逸さん。私は手を握り返し、彼の震える背を擦る。善逸さんが言いたいことは凄くわかる。この山の禍々しい雰囲気に私も飲み込まれそうになっていたから。
「何座ってんだこいつ。気持ち悪い奴だな…」
兄と伊之助はまだ気づいていないようで、私は困ってしまった。感覚というものは人と共有できるものではないからだ。私が兄の嗅覚で判別するというのが分からないと同じことだ。不意に兄の鼻が動き、兄が見る先と同じ方を私も見た。
「隊服を着ている!!鬼殺隊員だ!! 何かあったんだ!!!!」
「ヒャァ!!待って!!!!」
私も思わず走り出そうとした。しかし、善逸さんが掴んでいたため、私の足は止まる。まぁ、兄と伊之助が行って話を聞いているので、私は要らないだろう。私は苦笑して、彼の背を再び撫でながら、何気なく現れた隊員を見た。そして、目を見開く。
「お兄ちゃん糸!!!!」
そして、隊員と兄との距離が僅かという所で、私は彼に伸びた数本の糸が見えた。兄がキョトンっと私を見る。…間に合わない。
「炎の呼吸…壱ノ型 不知火!!!!」
私はトンっと地面を蹴り、体が浮いた隊員を引っ張る糸を切る。
「つ…繋がっていた…俺にも…」
隊員の体を支え、私は地に降りた。隊員は額に怪我を負っている以外は軽傷だったが、余程怖い思いをしたのか怯えていた。
「一体何が……っ!?」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
私たちの周りに糸が襲いかかり、私の体に糸が巻き付き、体が引っ張られた。
「幸子!!」
視界の端で兄と伊之助、そして善逸さんが私に手を伸ばす様子が見られた。
「…炎の呼吸…」
私は炎で糸を焼き付くそうとしたが、その前に勘のいい敵が先に糸を切り離し、私はそのまま落下していく。
「幸子!!!!」
駆けつけてくれた兄が私を受け止めてくれたため、私は特に痛みを感じることはなかった。しかし……
「助けてくれぇぇぇぇぇ」
もう1人の囚われた隊員は…山の方へと姿を消してしまった。ザワザワと木々がざわめきを見せる。その場に沈黙が流れ、兄が私を地面に下ろした。
「………俺は行く」