第11章 嘴平伊之助
朝になる頃には、嘴平さんの熱は下がっていた。私は朝日を浴びるとんーっとひと伸びした。そして、嘴平さんの額の上の布を変えようと手を伸ばすと……パチッと大きな瞳と目が合った。バッと、嘴平さんは近くにある猪の面を被る。そして、
「俺様、大復活だぜ!!!!」
と大きな声でマッスルポーズをした。私は慌ててしーっと彼に声を落とすよう言う。
「は、嘴平さん!! まだ2人は寝てて……」
「うおおおおお!!!! 飯ぃ!! 飯はまだかぁぁ」
私の声をかき消すかのように雄叫びのような声を上げる嘴平さん。その声で兄と我妻さんが布団の中で体をよじらせた。
「朝からうるせぇよ!!!! せっかく禰豆子ちゃんと幸子ちゃんの夢を見てたのに………って、お前もう良くなったの!?!? 早くない?」
「伊之助、まだ寝ている人たちもいるんだから、大きな声は出しちゃダメだぞ」
あーあ…二人とも起きちゃった…。しかし、嘴平さんは2人に構うことなく、大きく飛び跳ねた。
「猪突猛進!! 猪突猛進!! ギャハハハ!!!!」
そして、元気が有り余った嘴平さんが仕舞いにはまたあの肋に悪そうな体勢を取ろうとしたので、私は思わず叫んだ。
「伊之助!! また熱が出たらどうするの!!」
すると、今までの雄叫びが何だったのかと言うくらい、ピタッと静かになる嘴平さん。そして私の方をチラッと見る姿に、私は既視感を覚えた。
「………嘴平さん…」
「ギャハハハ!!!! 今の俺様に適う奴なんていねぇぜ!!!! お前の頭突きも怖くねぇ……」
「伊之助」
「……………」
私は思わず口に手を当てた。堪えきれないその感情に、思わず肩が震える。
「おいコラ猪ぃ!! てめぇ幸子ちゃんのこと困らせんじゃねぇよ!!!! 子供か!!!! 」
我妻さんのその一言で私はもう限界だった。笑いが零れながら、私は思わず兄を見た。私が何故こんなにも笑っているのか…兄なら絶対分かるはずだ。案の定、兄も涙目になりながら笑いを堪えていた。
「な……なんなんだテメェらは二人揃って!!!! イカれ兄妹共が!!!!」
「す…すまん伊之助…!! だが、お前のその行動…俺たちの弟も同じことをしたことがあってな…!!」
「ごめんごめん!! でも、本当昔の茂を見てるようで……許してね伊之助!!」