第11章 嘴平伊之助
~伊之助~
ムカつくでこっぱちがいると思った。そいつは頭が今まで見たどんな動物よりも固かった。俺はそいつとまた闘うために後をつけたのだが、そいつは挑発してもそれに乗ってこず笑いながら俺に飯を与えるだけ。飯を奪われたのに…何故あいつは乗ってこない? 頭がイカれてやがるのか? 何度かあいつが怒っていたことに関しては、俺様の記憶には残っていなかった。が、そんな時だった。そいつ以上に厄介な奴が現れたのは…
「止めなさい!!」
そいつはいきなり現れて俺を片手で持ち上げた。俺の蹴りや殴る手を軽く払い除けるメス。俺よりも強いメスは初めてだった。しかも、でこっぱちの妹だった。
「嘴平さん。食事は手づかみではなく、お箸を使うんですよ」
「嘴平さん。そのお面は食事中の時には外しておきましょう」
「嘴平さん」
「嘴平さん」
「嘴平さん!!」
あー!!うるせぇ!!!! そのメスは俺のすることすることいちいち難癖を付けやがる!! 俺の苛つきは今までにないくらい高まった。それに…!!
「もうお箸使えるようになったんですか!? うちの弟たちより飲み込みが速いですね」
「やっぱり嘴平さん、山育ちからか適応することに長けていますよ。たった1度教えただけで魚を綺麗に食べれてるんですから」
「今日は1度も頭突きしませんでしたよ!! よく我慢できましたね」
あのメスが現れてから、ほわほわする回数が増えた。あのババアやでこっぱちだけでも、ほわほわしやがるのに…。
「坊やはねんねの子守唄…」
俺は閉じそうになる瞼の奥で、ゆらゆら揺れながら歌う大人のメスの姿を見た。
「おやすみ、伊之助」
その声が隣で歌うメスと被り、俺は再びほわほわしながら眠りに落ちていった。