第11章 嘴平伊之助
「デゥヘヘヘヘヘ!! 善逸、善逸だって!! 聞いたかよおい。もうここまで来たら…け…けけけ結婚!?!?!? いや参っちゃうなぁ……デゥへへへへへ!!!!」
赤面した顔でこちらの様子を伺いながら、小声でずっと何かをいっている我妻さん。そ…そんなに見ないで欲しい…
「善逸。幸子が困っているから見るのを止めるんだ」
「デゥへへへへへ!! …え? 何か言いました? お義兄さん」
自分の世界に閉じこもっていた我妻さんは、今度は兄の両手を掴み、ヘコヘコし始める。外はすっかり暗くなり、私の手を遊び道具にしていた姉が兄たちの方に顔をやる。…やれやれ。
「じゃあ、私たちそろそろ戻るね。お姉ちゃん行こ…」
「ええええええ!? も、もう戻っちゃうの!?」
私たちが別に用意されている自室に戻ろうとすると、我妻さんが血相を変えて首を振った。
「まだここにいてよ!! 野郎ばっかで花がないし……な、なんなら一緒に寝ても…デゥへへへへへ!!!!!!」
「善逸…嫁入り前の女の子にそんなことを言うもんじないぞ」
兄が呆れた視線で我妻さんを見る。私は思わずクスッと笑った。まるで漫才劇を見ているかのよう。それを見ていた嘴平さんが鼻で笑った。
「けっ!! うるせぇ奴だぜ!!」
「ハッ!! お前には言われたくねぇよこの猪野郎!!」
我妻さんが彼の挑発に乗り、本日何度目になるか分からない喧嘩が勃発する。
「二人とも止めないか!!」
あたふたと兄が止めに入るが、二人とも相手に夢中で兄の制止を右から左に受け流す。最初は様子を見ていた私だったが、嘴平さんが仰け反るような体勢で自分の股の間に自分の頭を入れるということをし始めたので、私も慌てて止めに入った。
「伊之助!! その体勢は肋が治ってからって約束したでしょ!!」