第11章 嘴平伊之助
「幸子は禰豆子と一緒に弟たちの面倒を見てくれていたからなぁ」
「にしても、幸子ちゃんの根気強さがすげぇよ。あの野生児に箸をマスターさせるなんてさ」
夕食時になり、私は嘴平さんがちゃんと座って箸を使って食べていることに満足気に微笑んだ。嘴平さんは天ぷらが好きなようで、ここのところ毎日天ぷらだ。しかし、それでも自分の分が食べ終わると、じーっと人の天ぷらを見る。そして、しゅばばばとあっという間に私のお皿の天ぷらが一気に無くなる。ニヒヒと笑う嘴平さんに私は笑った。我妻さんの言う通り、もうお箸をマスターしたようだ。流石鬼殺隊とあって、上達するのが早い。元々飲み込みがいいのだろう。
「伊之助、足りないなら俺の分も食べるといい」
兄が嘴平さんに自分の小鉢を渡し、そして自分の天ぷらを私の空になったお皿に入れようとする。私は慌てて、自分の皿を覆った。
「お兄ちゃんたちは早く良くなるために食べなきゃ!! 私は別にどこも怪我していないし……」
「いいんだ。俺の傷はほとんど治ってる。それに、幸子が美味しそうに食べていることが兄ちゃん嬉しいんだ」
そう兄に笑顔で言われたら、それ以上何も言えないではないか。私はその言葉に甘えて、お礼を言うと兄の分の天ぷらを食べる。シャクっといい歯ごたえの天ぷらの衣と、段々舌に広がってくる旨みに私は思わず感嘆の声を上げる。
「…………幸子ちゃん!! お、俺の分の天ぷらも………ってない!?!?!?」
「ギャハハハ!! お前の分も俺様が食ってやったぜ!!」
その後、完全に怒りの度を超えた我妻さんが嘴平さんに突っかかっていったので、私は頭を抱えないといけなくなった。
「だから、食事中は席を立たないの!!!! 伊之助!! 善逸!!!!」
ピタッと2人は動きを止め、大人しくすごすごと座る。…意外にもすぐに言うことを聞いてくれたようだ。あまりの素直な2人に私も怒りすぎたと反省…しようとしていた。だが……
「幸子ちゃん。さ、さっきの…も、もう1回!!」
食事後に、我妻さんにずっと追いかけられたのはさすがに困ってしまった。