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君色に染まりて【イケヴァン長編◆裏】

第14章 温もり


私室に戻り、もう一度写真を見つめる。


「やっぱり………、ここに映ってるのはお母さんなんだ………。」


伯爵が自身の中に、『だれか』の面影を見ていることは気づいていた。


幸せそうに微笑う母の姿を、軽く撫でる。


「おばあちゃん………。

やっぱりあなたは、私がここに来ることを分かってたんだね………。」


ぽっ、ぽつ………。写真に触れる手に雫が落ちる。


「……、ふ………っ」


そのまま、儚い肩が震えはじめる。

口元を掌で覆い、嗚咽を殺そうと………。



ふわり。背後から抱きしめられて。



「誰ッ………?」

ちらりと見えた髪は、金髪。陽だまりの匂いがした。


「フィン、セント………?」

その言葉に、ぴくりと相手の肩が震える。


「どうして………。」

身じろいでも、回された腕が解けることはなかった。



「俺を、選んで………。」


「え………?」


驚きで涙は止まった。だけど。


「俺なら、あなたにこんな想いはさせないって約束するよ。

だから………。」


拒絶するように、彼の胸を押し返した。


「私は………、ナポレオンを愛してるの。だから、あなたを選ぶことはできない」


「アズリ………。」


その時。

彼女はフィンセントの背後で何者かが短剣を振りかざすのを見た。


「危ない、逃げて………!」


「え?」


彼を、思い切り突き飛ばす。

ざくり。切りつけられて、肩に鋭い痛みが走る。


彼女のブラウスが どんどん紅に染まっていく。

クリーム色のそれを汚す、鮮烈な色。




騒ぎを聞きつけたテオが 刺客を押さえつける。

彼女はそこで、意識を漆黒に染めた。





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