第12章 甘美な旋律【★】
元々美しい容姿をしている女だとは思っていたが
その表情をしているときはその外見にさらに磨きがかっているように見えて。
彼は自分でも気づかないうちに、アズリの華奢な身体を抱き寄せていた。
「………泣かないで」
「ううん、泣いてなんか………。」
俯き距離を取ろうと胸を押し返すが、彼はそれを許さなかった。
「どうして、こんなにも………。」
「え………?」
おもてを見られたくなくて、いっそう強く包み込む。
分かってる。彼女の心には、あの男がいるのだと。
(それでも………、俺だけを見てほしいって願ってしまう。
きっと俺は………、君がこの屋敷に来たその日から………。)
「モーツァルト………?」
名を呼ぶ声は、不安をはらんでいた。
そっと手を伸ばし、頬に触れる。
「………何でもない。だから、そんな顔しないでよ」
ふっと優しく笑んで、髪を撫でる。
………今だけは、そうしていても許される気がした。