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君色に染まりて【イケヴァン長編◆裏】

第12章 甘美な旋律【★】


「え………? 私と演奏会を?」

彼女を呼び出したのは、モーツァルトだった。


「あぁ、伯爵からのお達しだ」

(私がヴァイオリンを弾けること………、伯爵はどうして知って………。)


戸惑いを声に載せるよりも先に、手首を掴まれる。


「………行くよ」

「う、うんっ」


たどり着いたのは、純白と淡いグリーンで統一された部屋。

………ピアノ室だ。


「これ………、君の為にって伯爵が用意したんだ」

そう呟いて、ぴかぴかのケースから取り出されたのは………。


「綺麗なヴァイオリン………。」

木製の部分に触れると、つるりとした感触が伝わってくる。


ふわりと微笑んで、演奏の構えを取る。

弓で弦を震わせる感覚に、なんだか泣きたくなった。


(おばあちゃんが私に………。ヴァイオリンのいろはを教えてくれったっけ………。)


両親との想い出なんて、片手で数えるほどだ。

否、両親の記憶はほとんどない、といった方が正しい。

物心つく前に、二人は他界していたのだから………。


「俺のピアノに合わせて、即興で弾ける?」

「う、うん。できるよ」

彼の声で現実世界へと帰ってきて、慌てて構えを取りなおす。


それを見届けてから、甘く優しい旋律を奏ではじめる。

そして半ばでビアノの余韻を持たせ、ヴァイオリンを弾き始めた。


二人で奏でる旋律が まるで二つで一つのようにぴったりと合わさって………。


ちら、と一瞬だけ彼女に視線を送ると

自身の演奏に没頭しながらも、己の奏でる旋律に自然を合わせてくるさまが見て取れた。


やがて二人の旋律を終えると、彼女はデスクにヴァイオリンを置き指先でそれを撫でた。


その唇は、昨夜も中庭に佇んでいた時に浮かべていた儚い微笑に形づくられている。

瞳は半ばで伏せられていて、そのさまも極まって異彩を放っていた。




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