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君色に染まりて【イケヴァン長編◆裏】

第1章 首飾り


救い出したばかりの彼女の手を引いて、廊下を進む。


月灯りの下 灰の髪がさら、と音を立てる。

伏せられた睫は長く、頬に影を創っていた。


「伯爵、あんたに会わせたい人がいるんだが」

控えめなノックのあと。呟いて。


「………入りなさい」

穏やかな声が命じる。


ナポレオンの背に半分隠れるようにして、部屋の中へと足を踏み入れて。


「ナポレオン………、随分と美しい人を連れているね」

優雅だけれど、心の見えない微笑み。


「茶化すな。森の中で倒れていたから、連れてきただけだ」


「此処が『どういう』場所かは………、説明したのか」


「いや? だからこそ、連れ出したんだが」

にやりとたしかな意思を感じさせる笑み。


「お嬢さん………、」


「アズリ、です」


「ではアズリ、まずはそこに座ってくれ。

この屋敷について、説明しよう」


「このお屋敷の………? どういう、事ですか?」


「それは………」





それから彼女は。


此処が19世紀フランスだと云うこと

屋敷の住人たちはみな『永遠に等しい時間』を手にするためヴァンパイアとなった事

そして、元の世界へと帰るための扉は

ひと月経たないと開かない………と云うことを聞いた。



「そんな………。でも……私は、」

言いかけて、唇をかむ。


(おばあちゃんの形見が………、私をここへ連れ出したって云うの?)

思考に載せぬまま、そっと首飾りに触れる。


「セバスチャン………、彼女を部屋へ」


「かしこまりました。………アズリ、此方へ」

「は……はい」




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