第2章 夢幻の果てに
翌日のことだった。
「君がセバスチャンの補佐を?」
告げられた言葉をありのまま繰り返せば、アズリはそっと微笑んだ。
「伯爵………、あなたは見ず知らずの私を受け入れてくれましたから。
だから………、私は私のできる事をしていたいんです」
一点の穢れもないサファイアの双眸。
まっすぐに、彼を見つめて。
その瞳に偽りなど映っていないことを見て取ると。
ぱんっ、ぱん、と手を打ち鳴らした。
「お呼びでしょうか………、伯爵」
どこからともなく、執事が現れる。
「アズリに………、君の補佐を」
一瞬だけ、セバスチャンの灰の瞳が切なげな煌めきを宿したように見えたけれど。
すぐにそれは消えて、慇懃に一礼をした。
「かしこまりました。………アズリ、行きますよ」
「は、はいっ」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
一人になった自室で、伯爵は来訪者を思考に載せる。
彼女は………、今までこの屋敷へと誘った女性たちとはまるで違う。
少なくとも今までの女達は、ひたすら『彼ら』に怯えるか
命乞いをするか………、そのどちらかの反応ばかりだった。
ところが、彼女が怯えていたのは最初の一夜だけ。
それ以降は畏怖の欠片も見せることなく、ありのままの表情を見せてくれる。
「君ならば………、
俺の『願い』を叶えてくれるのかも知れないね………。」
温かな陽光に溶けゆく言葉。
それを捉えた者は………、いない。