第2章 夢幻の果てに
なかば廊下を進んだところで立ち止まり。掌で目元を覆う。
「なんだよ、あれ………。」
己の中に走った衝動。去り際を呼び止めて告げられた言葉。
その時の笑顔が 脳裏に残ったままで………。
「あれ、ナポ君じゃん。
………そんなトコでどうしたの?」
大抵の女性ならば虜になりそうな………、蕩けるような笑み。
………アーサーだ。
「別になんでも。それより………、俺はもう行くからな」
そう呟いて廊下を進もうとする彼の足を止めたのは………思いがけない言葉。
「『アズリ』………、でしょ。
あのコのせいで、そんなに心を乱されてる………違う?」
思わず足が止まる。そんな彼の内心を知ってか知らずか、彼はさらに畳み掛けた。
「あのコが伯爵の考えを見透かしたら、
あのコはどうするんだろうね………?」
振り返り、厳しい視線を向けど。
アーサーはそれを悪戯な視線ではね返す。
「………あんた等の好きにはさせねえよ」
低く冷たく言い放った。
彼の言葉に、らしくなく乱された心を隠すように。
廊下の向こうに消えた彼に、呟いた。
「やれるモノなら、ね………。」
浮かべた妖しい笑みを、三日月だけが見つめていた。