第2章 …何ここ
霧の世界
薄暗いマクミラン・エステートに住むトラッパーは、草木の奥から聞こえる不自然な音が気になっていた
エンティティが召喚された気配もしたため
余計気になって見に行くと
迷い込んだと思われる女が一人
「あ…?こんな人間いたか…?」
その場に座り込んで逃げる様子もない女の顔を見ると
まるでこの世の終わりみたいな絶望した顔をしていた
新しい生贄なのかもわからない
女の様子を見る限りエンティティに何かされたわけでもなさそうだ
だがずっとここに居られても困る
連れて行くにしても恐らく怯えてついては来ないだろう
面倒だ、と思ったトラッパーは女を担ぎ上げてそのまま家に向かった
諦めていたからか暴れたりもしなかったため運びやすかった
とりあえず家の前までは来た
相手が女だというのもあって躊躇い家の前に下ろした
「死にたくないなかったら入ってこい」
それだけ言ってトラッパーは先に家の中に入った
しばらくして覚悟したのか女は恐る恐る家に入ってきた
「あ、あの…」
話しかけてきた女に顔を向けると、一瞬ビクリと体を震わせたがそのまま言葉を続けた
「あの…ここってどこ、ですか…?」
どうやら本当に迷い込んでいたらしい
とは言え迷い込むことなど本来なら無い
エンティティが自ら餌にふさわしいモノを選んでこの世界に連れてきたのならいざ知らず
女は無理やり連れてこられたようにはとても見えない
「ここは霧の世界だ」
「霧の世界……」
「とりあえず座れ、落ち着かんだろうがな」
「あ…ありがとうございます……」
多分今も恐怖はあるのだろうが、女は素直に従った
「名前は?」
「え?」
「聞いていなかっただろう、お前の名前は?」
「あ…シルフィです…」
「俺はトラッパーだ」
「トラッパー…」
本名はエヴァンだが、どこの誰とも知れない女に教える必要もないだろう
そんなに長居でもなかったが、シルフィは唐突に立ち上がった
「あ…じゃあこれで失礼します…親切にありがとうございました……」
「ああ、いい。だがここを出てどこかあてはあるのか」
「う”……」
痛いところをつかれ、バツが悪そうにこちらを見るシルフィ
それを言わないでくれとじとーっとこちらを見つめられた