第5章 ◆君が居れば、何も要らない*信長、秀吉、家康*
《君が居れば、何も要らない 家康ver.》
「家康〜」
俺の膝の上に後ろ向きで座り、背中から俺に抱き締められながら、舞は俺の名前を呼んだ。
なんだろう、名前を呼ばれただけで…
心の中がくすぐったいような、そんな気がする。
「ん、どうしたの?」
「ただ呼んでみただけ、ふふっ」
「何それ、意味解らない」
「今、幸せだから、いいのっ!」
(何、その理由…可愛すぎて困るんだけど)
そうは思っても、心の本音を上手く言えない俺は、そんな事を言えるはずもなく…
代わりに、身体を抱く腕に力を込めた。
温かい、舞は本当に。
こんな温もりを手にする事が出来たなんて、まだ夢みたいだと思う。
その温もりが明日『正式に』俺のものになる。
それが未だに信じられなくて、これまた夢みたいだと思うのだけど…
でも、これは現実だ。
戸惑い迷った日があったとしても、今現実として、この腕の中に舞がいる。
……それが、不思議なんだよなぁ
「明日、やっとこれを着られるんだね」
と、舞が掛けられてある白無垢を見つめながら、ぽつりと言葉を漏らした。
明日、舞が着る花嫁衣裳。
それは二人で一緒に選んだものだった。
「そうだね、もう明日だよ、祝言」
「なんか信じられないなぁー……」
「どうして?」
「家康とはここまで来るのに、色々ありすぎて…まだ正式に結ばれるって言うのが実感湧かなくて。本当に、色々あったから……」
「……そうだね」
自分の気持ちに蓋をして、舞を突き放した事もあった。
この子が助かるならと…
一度は未来に帰すと言う決断までした。
実際、それが出来たかは不明だけど…
確かにこの子との間には、色々ありすぎるくらい、たくさんの出来事があって。
でも、思う。
そんな日々があったからこそ、今の俺達があるのだと。
(きっとどれが欠けても、駄目だった)
すれ違い、迷う日があったから、俺達は強く結び合い、こうして一緒になることが出来たんだ。
全てが愛しすぎる経緯。
そう思えるのは……
やはり相手が舞だからだと、そう思う。