第4章 たまには甘えていいですか?*三成、家康、光秀*
《たまには甘えていいですか? 光秀ver.》
(何故これだけで、そのような顔になるのだろうな)
俺は首を傾げて、目の前の舞を見る。
舞はと言うと、俺が差し入れてやった、甘味屋の餡蜜を頬張りながら……
『至福の幸せ』といった笑みを浮かべていた。
俺は食べ物の味が解らない。
甘味だって、甘いのは解るが、味の違いはよく解らないし……
だから、食べて幸せだとか。
そんな風に思った事は一度もなかった。
けれど──……
美味そうに食うお前を見ていると、それは幸せになれる材料なのだとつくづく思う。
「美味いか?」
「はい、とっても!わざわざ甘味屋さんで買ってきてくださって、ありがとうございます!」
「頑張っていた褒美だ」
「え?」
「最近着物の依頼で、随分遅くまで起きていただろう。いい子には褒美をやらんとな」
俺がそう言うと、舞は目を見開き、少しびっくりしたような面持ちで俺を見た。
俺が知らないとでも思ったのか?
納期に間に合うように、随分根詰めてやっていたこと。
俺がこっそり会いに行ったら、お前が頑張っているようだったから…その日は会わずに帰ったんだが。
付け足してそう話すと、舞はさらにびっくりしたような表情になった。
「会いに来てくださったんですか?!」
「まぁな」
「うー…それはすみません」
「別に謝ることではないぞ」
「でも…光秀さんは何かなきゃ訪ねて来ないじゃないですか、だから…何かあったのかと思って」
そう言われ、あの日の自分を思い返す。
確か、他国へ諜報活動に行って…何故か少し疲れたと思って。
それで舞の顔が見たくなって……
思い出してみれば、大した理由ではないな。
「別に、大した事ではないぞ」
「本当ですか?」
「少し疲れただけだ」
「疲れた?」
「ああ」
確かに会えなかったのは残念だったがな。
そんな風に思っていると、舞は少し考えるように俯き……
やがて、餡蜜の器を横に置くと、俺に向かって腕を広げてみせた。
(……なんの真似だ?)
そう思って舞を見つめると、至極真面目な顔つきで。
まるで、俺をあやすかのような優しい口調で言った。