第3章 濡れる君の肌と淡い声*幸村、政宗、光秀*
《濡れる君の肌と淡い声 光秀ver.》
────俺は今日、安土を立つ
敵国に入り込み、探って謀反の証拠を掴む為に。
またいつものように、周りには知らせない。
俺一人の単独行動、お得意の仕事である。
それ故に、また色々汚れた手も使った。
こうした裏の仕事が嫌だと思った事はないが…
時折、無性に寂しさが忍び込むのは何故だろうか。
(───………雨、か)
早朝、出立のために御殿を出て見上げると、まだ薄暗い空から大粒の雫が降り注いでいた。
しとしとと零れる水滴は、見る間に着物を濡らす。
俺は頭に被った笠の紐を、再度きつく締め直し…
ぬかるみ始めた道を、一歩また一歩と足を進める。
その時、何故か一旦城を拝んでから向かうかと。
そんな気持ちになり、俺は安土城に立ち寄った。
少し遠目から城門を見据え……
色んな思いを張り巡らせたが、それを振り切ろうと城に背を向けた時だった。
「光秀さんっ……!」
聞こえるはずのない声が聞こえた気がして、思わず振り返る。
すると、城門から傘を差した小柄な女が飛び出してきて、俺の元へと駆け寄った。
「舞…どうした、こんなに朝早くに」
「光秀さんこそどうしたんですか?その格好…どこかに行くんですか?」
「まぁな…仕事だ」
『仕事だ』
その一言だけで、舞は全てを察したのだろう。
途端に表情を曇らせ、俺をじっと見つめてきた。
────『貴方が心配です』と瞳が語っているな
だが、心配される筋合いもない。
俺を心配したところで、何の得もないからな。
そう思ってくすっと笑うと、舞は胸の辺りを手で押さえながら、不安そうに言葉を紡いできた。
「また、誰にも言わずに行くんですか……?」
「言おうが言うまいが、俺のやる事は変わらない。お前も、ここで俺に会ったとは言うなよ?」
「でもっ……!」
「いい子なら言う事を聞け。そのような目をするな、全てを物語っているぞ」
思わず幼子をなだめるように、頭を撫でると……
今度はキッと意志の強い目付きで俺を見据え、俺の手を振り払った。