第3章 濡れる君の肌と淡い声*幸村、政宗、光秀*
「別に入れてくれなくて結構です!」
「可愛くねーな、素直に入っとけ」
「どうせ可愛くないから。それに私達、喧嘩中でしょ」
(相変わらずの意地っ張りだな)
そんな風に強がっているけれど…
その細い肩はしっとりと濡れ、少しだけ震えているのが解って。
濡れて、寒いんだろうな。
そう思ったら、自然に手が伸びていた。
「あっ……」
俺は傘を持っていない方の手で、舞の肩を掴み。
そのまま胸に、その小さな身体を引き寄せた。
ぽすっ…といい音がして、舞が胸にぶつかる。
片腕を背中に回し、きゅっと抱き締めると…
俺は舞の耳に唇を寄せ、ぽつりと呟いた。
「……嘘、お前はすげー可愛い」
瞬間、舞の身体がピクリと震える。
顔を見なければ、俺だって素直に言えるんだ。
どんなにお前が好きか、好きで堪らないか。
────それは、身に巣食う赤裸々な想い
「悪かったな。甘味屋では照れくさくて、口が滑っちまって」
「え…?」
「お前が可愛いからつい…でも素直に可愛いなんて言えねーから、お前を怒らすような事ばっか言っちまう」
「幸村……」
「ずっと、いつでも思ってる。お前は可愛い…すげー好き」
自分でも頬が火照るのが解った。
本当だったら、目を見て言えればいいのに…
それでも、今の俺なりの精一杯の『素直』だ。
すると、舞はすっと俺の腰に腕を回してきて…
胸に頭を預け、小さくふふっと笑った。
「私も、幸村が大好き。私こそごめん」
「……おー。これで仲直りな」
「うんっ!」
「送ってく、帰るぞ」
「うん、ありがとう」
そのまま舞の顔を覗き込めば、舞はほんのり目元を染めて、可愛く笑っている。
(くそっ、可愛いじゃねーか)
すぐにでも口づけたい衝動に駆られた。
その柔らかな温もりに、今すぐ触れたいと。
コイツに、馬鹿みたいに振り回されてる自覚はある。
可愛く笑うたび、心が疼いて堪らなくて。
すぐに手の中に閉じ込めて、奪ってしまいたい。
灼熱の想いに突き動かされるように。
騒ぐ鼓動を感じながら、俺は……
舞の頬に手で触れ、そっと優しく指を滑らせたのだった。