第3章 濡れる君の肌と淡い声*幸村、政宗、光秀*
《濡れる君の肌と淡い声 幸村ver.》
『幸村のばかっ!本当に女心、解ってない!』
舞がそう言って甘味屋を飛び出して行ったのは、つい四半刻前だ。
久しぶりに舞と逢瀬をして、休憩がてら甘味屋で団子を食べて……
そして案の定、些細なことで喧嘩になった。
どうして、顔を合わすと喧嘩になるのだろう。
もっと気の利いた言葉を言えたなら……
もう少し、舞は笑ってくれるのかもしれない。
(でも、怒った顔をも馬鹿みてーに可愛いんだよな)
惚れた欲目と言うものは恐ろしい。
あばたもえくぼと言うのか、何をしても可愛い。
愛しく思えて、本当に困ってしまう。
でも……怒らせたままじゃ、さすがに良くないな。
そう思い、店主に団子代を払い、外に出てみると。
空は鉛色の曇天になり、しとしとと雨粒が落ちてきていた。
────舞、傘持ってなかったよな
ふとそんな事を思い、近場で傘を調達して、舞の行きそうな場所に足を向ける。
多分、城に帰るだろうが……
この雨なら、どこかで雨宿りをしているかもしれない。
そんな事を思いながら、小路地に入ってみると……
(───………居た)
ある一軒家の軒下で、雨宿りをしている舞を発見した。
空を見上げ、ため息。
今度は俯き、またため息。
その憂いを帯びた横顔に……
俺は少し罪悪感を覚えながらも、傘を持って近づいた。
「……っ!」
無言のまま、すっと隣に立って舞の頭の上を、傘で覆う。
すると、それに気がついた舞はぴくっと身体を震わせて、こちらを見た。
(目、真っ赤だな)
その少し潤んだ瞳が兎みたいになっているのに気がつき、また心がちくりと痛む。
それでも尚、気の利いた言葉なんて出ない俺は…
少し不機嫌そうに、ぶっきらぼうな台詞を放った。
「こんな所に居ねーで帰るぞ」
「幸村……」
「別に、傘が半分空いてるだけだから」
俺がそう言うと、舞は口をへの字にし。
ふいっと顔を逸らして、俺から視線を外しながら、素直じゃない口を叩いた。