第8章 新しい筆のおろし方01 /口づけの意味03
御殿に戻り、文机の前に葵を座らせ自分も正面に座る
「俺はあんたにも怒っているんだけど?」
「えっ?」
なんで怒られるのか分からないというような顔をしている葵に片手を伸ばし
頬を引っ張りながら
「分からない事にはその場で答えを出すなってこれまでも何度も言っているよね?
なんで俺を待っていられなかったの?」
「いひゃいっ…」
話せるように引っ張る手だけはゆるめると
「だって言葉そのままの話だと思って」
今度は両手で頬を引っ張る
「ただの新しい筆をおろすってことを、あんたをわざわざ城に呼んで信長様が言うと思うの?」
「いひゃーい…思わ、、ない」
「でしょ?そんなに俺の言う事を聞けない?俺の事頼りにならない?」
「ちがう、違うよ!いつも家康に迷惑ばっかりかけているから…できることがあればしたいって思っているだけ」
「行動や決断する前に俺に相談してくれた方がよっぽど迷惑じゃない。
これからあんたが、勝手に行動したり決めたりしたら、俺を頼りにならないと判断したと認識する。わかった?」
「ごめんなさい。これからはもっと気をつける」
目に見えてしょぼんとする姿に頬が緩まりそうになるのをこらえ
すこし赤くなった頬を撫でてやりながら
「あんたを責めているんじゃない、あんた知らないところで勝手に物事が動いてしまったら取り返しのつかないことになる。それを心配しているだけ。」
「うん。わかってる、ありがとう」
今日はあまり見かけなかった
緊張感のないへにゃへにゃした笑顔をみせる葵に
今度は頬が緩むのを隠せなかった