第8章 新しい筆のおろし方01 /口づけの意味03
話は終わったと、退出しようとすると
外から声がかけられた
「信長様、蘭丸です」
「はいれ」
「はい」
「あっ葵さま!」
蘭丸は葵がいることに目を輝かせたが、
その隣に家康がいることに気が付くと
一瞬気まずそうな顔をする。
家康はそれを見逃さなかった。
「蘭丸、なに考えてんの?」
「なんのことですか?」
いつものように可愛らしく首を傾げるのを無視して詰問するように聞いていく
「筆おろしのことだ」
「ああ、それがなにか?」
「なぜ葵を指名する」
「それは俺が葵様を大好きだからですよ。出来ることならば大好きな人とって思うのは当たり前でしょう?」
さすが信長様の小姓だけあり、飄々と交わしていく
葵の前にスルっと移動し甘えたような声をだす
「葵様。突然で驚いたよね?ごめんなさい。
でも、葵様なら俺も頑張れるって思うんだ。
だから受け入れて?葵様は俺が嫌い?」
目に涙をためてお願いする様子につい葵が口をひらく
「蘭丸君…」
「葵、あんたは黙ってな、後でちゃんと説明するから」
「あっはい」
蘭丸がキッと家康に向け
邪魔しないでくれと言わんばかりの目を向けてくる
「家康様には関係のない話ですよね?」
「ああ、全然関係ない。でも、世話しているこの子の不利益になることは看過できない」
「不利益なんてひどいー」
なんて可愛らしく口を尖らせるが、騙されるか!
「じゃ、失礼します。葵、いくよ」
話は終わったとばかりにさっと立ち上がる
「あっうん」
立ち上がり天守を出ようとするところに信長様と蘭丸が声をかけてくる
「葵、ちゃんと考えて答えをだせ」
「はい。わかりました」
「葵様、一日でも早く安全になって城に戻れるようになるのを祈ってるね」
「うん、ありがとう」
「近いうちに会いに行ってもいい?」
「御殿に来るなら俺に許可を得てからにしてくれる?」
答えを待たずに天守をでる
「葵、御殿に帰るよ」
「えっ?政務は?」
「あんたは気にしなくていい」
「でも…」
さっさと従者に指示をだし、御殿に戻る手はずを整える
一秒でもこの城に葵をおいておきたくない