第8章 新しい筆のおろし方01 /口づけの意味03
急ぎの要件をすまし、早足に天守へ向かう
「信長様、家康です」
「はいれ」
襖を開けると、信長の前に座った葵と目が合う。
変わらない笑顔をみせる様子をみて、ホッとして横に座る。
「先ほど葵にも話したところだ。
葵は快諾してくれたのでな、お前は来なくてもよかったぞ」
「は?快諾?あんた一体何を了承したの?」
隣のみちにギロリと目線をやると、代わりに信長様が答えてくる
「葵に蘭丸の筆おろしを手伝えと申したのだ」
「へ?」
「ね、私にだってできそうでしょ?」
ふふんと得意げに言ってくるが…
「…あんた、筆おろしの意味わかってるの?」
「意味?」
きょとんと首を傾げる姿にがっくりと肩を落とす
「…信長様、葵は筆おろしをどのようなものか理解していません。理解させずに了承させたなんて納得できません。」
「えっ家康、私は…」
「あんたは黙ってな」
ピシャリと葵の言葉を遮る
「そもそもなぜ、葵なのですか?通常であればもっと…年齢の高い人であるはずです」
経験のあると言いそうになって言葉を噤む…
「それは蘭丸が葵がいいというからだ」
「なっ」
「そう何度もあるものではないのだ、相手位選ばせてやってもよかろう。お互い決まった相手がいないのだから構わんだろう?」
いつものように一癖も二癖もありそうな笑みを見せる
「了承しかねます」
「では、家康が筆おろしについて説明し、葵に判断させろ。なんだったらやり方も教えてやれ。後見人だろう?」
「…わかりました。説明して判断させます」
葵はこれまでのやり取りで、自分の思っていた筆おろしではないという事に気が付き、大人しくしている
昨日、後見人と言ったのはこういう事だったのか
本当に人が悪い